テナーサックスの巨匠、ソニー=ロリンズが来日した。現在75歳。今回を「最後の長旅」とし、事実上最後の来日公演になるという。アサヒコムに掲載されたインタビューを読むと、2年前の来日公演の際に、奥さんとそういうふうに話合ったのだそうだ。彼女はその時既に車いす生活だった。そして昨年に他界。その約束を守るというのが、最後の理由だ。残念ながら僕は聴きにいくことが出来なかったが、内容はいつも通り素晴らしいものだったようだ。
別にロリンズが逝ったわけではない。でもやはり寂しかった。熱いジャズが聴きたくなった。それもサックスが思いっきりブローするヤツがいい。手持ちの名作をいろいろと聴いているうちに、以前このろぐでもとりあげたエルヴィン=ジョーンズの「ライトハウス」にも手が伸びた。聴いているうちに、そういえば彼の遺作となったライヴ盤が発売されていたなあと思い出し、買ってみることにした。
この作品は、エルヴィン=ジョーンズの72歳の誕生日を祝って、1999年の9月にニューヨークのブルーノートで行われた2日間の演奏から、ベストテイクを収録したものである。収録時間の関係からだろうが、各メンバーのベストソロを中心に収録曲をセレクトし、曲によっては他のメンバーのソロを編集することでコンパクトにまとめて、60分でステージの全体に近い内容を楽しめるようになっている。
商品が届いた先の金曜日、会社から帰ってポストに入れられたCDを手にした僕は、部屋に入ってすぐにステレオの電源を入れ、これを大きな音量でならした。のっけから彼の名前を冠した「EJブルース」が鳴り響く。熱いものが僕の身体のなかを流れた。そのまま食事もとらずに60分間全7曲を一気に聴いた。
ロビン=ユーバンクスをはじめとする、若手メンバー達の演奏はどれも素晴らしい。もともと若手を育成することを目的にしたのが、このジャズマシーンというグループであり、常に若手とベテランをバランスよく配して刺激的なインタラクションを起こしてきたわけだが、それはこの演奏でも見事な効果を生んだようだ。(編集によりその辺の醍醐味が味わいにくくなっているのがやや残念である)
嬉しいのは、若手中心のフロントを支えるベースに「ライトハウス」のジーン=パーラが参加していること。そしてなんといっても、スペシャルゲストとして参加しているマイケル=ブレッカーの存在が圧巻である。マイケルは「ボディ アンド ソウル」と「五木の子守唄」で圧倒的なソロパフォーマンスを展開。彼は現在もMDS(骨髄異形成症候群)という血液の癌で療養中、ドナーを募集している状況が続いており、一日でも早い完治と復帰が待ち望まれているだけに、少し前のものとはいえ、こうした演奏が聴けるのはうれしいことだ。(彼の演奏は他に「トゥルース」のエンディングなどでも少し聴くことができる)
そしてもちろんエルヴィンのドラムも秀逸だ。確かに1972年の「ライトハウス」や1984年の「ピットイン」などに比較して、ドラムのパワーは多少の衰えを感じないわけではない。でも全体の内容は、僕の予想を超えたものだった。どの曲での演奏も素晴らしいが、なかでもピアノトリオで演奏されるコルトレーンの「ワイズ ワン」でのドラム演奏はまさに鬼気迫るものがあり、一聴の価値がある。
最後に収録された、メンバー紹介をするエルヴィンの肉声には、この演奏の4年後に彼が76歳でこの世を去ったことを考えると思わず胸が熱くなる。編集が気になるところはあるものの、演奏のクオリティが高いだけに、ライトハウス同様、是非とも完全版での発売を期待したい作品である。
久しぶりに熱いジャズが聴けた。やっぱりこういうものが演奏できたら最高だろうなあ。
Elvin Jones Drummerworldによるエルヴィンのページ。写真、試聴、動画など多数あります。
Michael Brecker マイケルの公式サイト 近況報告とともに、彼の病気を治療するのに必要なドナー募集に関する情報があります。
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