6/18/2005

アルバート=アイラー「ホリー ゴースト」

  いやあ、もうすっかり「アイラー祭り」状態です。今回も迷いましたが、えぬろぐはその週に聴いたものを正直にご紹介するというのが趣旨なので、またアイラーを取りあげます。フリー嫌いの方、すいませんね。

 前回取りあげた中上健次氏の書籍の他に、取寄せ中のアイラーに関する資料とは今回の9枚組CDボックスセットのことであった。これが昨年秋にリリースされた時は、僕もその内容に驚いたが、正規盤でないいわゆるプライベート録音のコレクションということで、果たして買って何度も聴くかなあという疑問があって、高い価格(アマゾンで約1万3000円)ということもあってその時は見送ることにしていた。

 しかし、最近のアイラー祭りでその抑制もあっさり打ち破られ、欲求の趣くままにもう「買うならいましかないと」購入ボタンを押してしまった僕であった。今回はじめて、アマゾンのマーケットプレイスで輸入CDを安価に販売する事業者caiman americaを利用することにした。アマゾンに比較して3500円の価格差はやはり魅力的である。多少時間がかかったが、アメリカのアマゾンで注文するのとほとんど変わらない。ちなみにこのセットは国内の輸入CD販売店店頭では16000〜18000円程度の値段で売られている。

 内容はプライベート録音を中心にアイラーの演奏を収録したCDが7枚と、アイラーの遺したインタビューを収録したCDが2枚。そしてブックレットやアイラーを偲ばせるアイテムが付録でつけられている。音源はほとんどすべて未発表のもので、1962年にヘルシンキで収録されたセッション(いきなりロリンズのナンバーで始まる)や、セシル=テイラーとの共演、自身のトリオ、クィンテットでの演奏、ジョン=コルトレーンの葬儀での演奏(!)、ファラオ=サンダースとの共演、そして前回ご紹介したフランスでの最後の演奏と同時期の演奏などが収められている。

 ちなみにタイトルの"Holy Ghost"とはアイラーがコルトレーンの葬儀で語ったと言う次の言葉から来ている。
"Trane was the father. Pharoah was the son. I was the holy ghost."(コルトレーンは父であり、ファラオ(=サンダース)はその子。そして私は精霊なのだ)
 これが宗教におけるいわゆる三位一体の原点と言われる「父と子と精霊」から来ているのは明らかである。このあたりからも彼のなかでの宗教の位置づけがよくわかる。

 聴いてみて驚いたのは音質が意外にもいいこと。これはこのセットを制作した人たちの努力の賜物に違いない。CDの中身だけでなく、ボックス全体の隅々にまで制作者のアイラーへの想いがゆきわたっている。日本のアーチストでこういった付録つきコンプリートボックスというものを見かけるが、資料の入手困難さなどを考えれば、とにかくこのセットの完成度は常識を超えている。僕もこれほどのものを購入するのは初めてである。

 膨大な内容なので、演奏についてコメントするのはもう少し先のことにしたい。今回はちょっと子供っぽいのだが、このボックスセットが届けられた時の興奮を少しでも再現してお伝えしようと思い、ルール違反ではあるが、以下に写真でその概要をお伝えしようと思う。


ボックスの全体(左にあるのは通常のCDケース)


ボックスにつけられた帯にはタイトルとともにあの言葉が...


重厚な彫刻が施されています...


ケースを開けると208ページのブックレットが入っています


これがこのセットのすべてのコンテンツです


ブックレットのページから。コルトレーン自身の遺言に従って彼の葬儀で演奏するアイラーグループ!


ブックレット内側の装丁。きれいです。


アイラー活動当時のミニコミ誌2種類とスラッグズサルーンでのライブを告知するフライヤー(いずれもレプリカです)


ヨーロッパのホテルのメモ用紙に綴られたアイラー自筆の手紙(左)12歳のアイラー少年の写真(右)


特別付録はアイラー軍楽隊時代の演奏を収録したCD。テープケースをジャケットに、保管記録紙をCDレーベルにあしらえてあります


そして一輪のドライフラワーが供えられています(アーメン...)



 これを見てぐっと来た人もいれば、呆れた人もいるかと思う。反応は人それぞれ様々だと思うが、僕自身も含め、ここから学ばなければいけないなと思うことが一つある。それは「いい仕事」とはまさにこのボックスセットのようなものだということ。好きでなければここまでは絶対に出来ないだろう。そして、まったく同じことがアイラーの演奏についても言えるのだ。

 ブックレットには貴重なアイラーの未公開写真が収録されているが、多くの写真は笑顔のアイラーだった。そのことに僕はとても満足だ。じっくりとアイラーの「笑顔のフリージャズ」を堪能したいと思う。

revenant records このセットを企画制作発売している会社です このセット以外にもマニアックな発掘盤がいっぱい
Albert Ayler アイラーについてのほとんどのことがここでわかります
 

0 件のコメント: