梅雨の中休みに入ったそうだ。本日午前9時30分現在、川崎市の気温は28度を超えた。昨日に続いて今日も30度超えは確実な一日になりそう。やれやれ。。。
初夏はまだ夏ではない。みんなまだ夏本番の解き放たれた様な気分にはなっていない。だから軽快な音楽にもいま一つノリきれない。夕べは一人でビールを飲みながら音楽を聴いて過ごした。昼間とは違って、窓を開けるといい風が入って気持ちよかった。その状態でそこそこの音量を出して聴ければ最高なのだが、さすがにこの界隈では無理なようだ。
今日とりあげる作品はヘレン=メリル。女性ジャズヴォーカルの大御所だ。1954年に収録された、トランペットのクリフォード=ブラウンと組んだデビュー作はあまりにも有名な1枚(写真右)。彼女のベストアルバムとしてはもちろんのこと、ジャズヴォーカルのベストアルバムとしてこれを挙げる人も多い。
僕にとってヘレンのベスト作品はそのデビュー作ではなく、今回の作品「ミュージック メイカーズ」である。僕が大学生の時、1986年に発売されてすぐに購入した。理由は彼女のヴォーカルが聴きたかったというよりも、共演者の方に興味があったから。このアルバムは当時彼女の伴奏を努めていたピアニスト、ゴードン=ベックとのデュオに、前半後半でそれぞれもう一人がゲスト参加するというスタイル。前半が以前のこのろぐでもご紹介したソプラノサックス奏者スティーヴ=レイシー、そして後半がジャズヴァイオリンの巨匠ステファン=グラッペリである。
当時、僕の興味はステファンにあった。彼についてはいずれここでとりあげることになるだろうと思う。彼が参加して収録されている「アズ タイム ゴーズ バイ」は、僕にとってこのアルバムのベストトラックであり、この歌のベストパフォーマンスでもある。
そして、僕はこのアルバムではじめてレイシーの素晴らしさを知った。1曲目の「ラウンド ミッドナイト」はこのアルバムで2番目に好きなトラック、そして僕にとっては、これまでに数百はあるだろうこの曲のベストパフォーマンスである。ヘレンの歌に続く彼のソロは何度聴いても本当に素晴らしい演奏だ。それ以来、僕は彼の演奏を集め続けている。僕がはじめてレイシーを生で聴くはずだった昨年の来日公演の直前に、彼が逝ってしまったのは本当に残念である。
デビューから50年以上の歳月が経過しているヘレンだが、未だ現役で活躍しているというから凄いことだ。来月初旬にはブルーノート東京でライブがあるらしい。息子のアラン=メリルという人が、ギターと歌を披露するらしい。ジャズの世界で半世紀にわたって活躍を続けている人は貴重な存在だ。できれば来日公演を聴きに行ってみたい。
これはひとりで聴くCDです。何も考えることはありません。楽しい時、悲しい時、疲れた時、眠れない時、ただ聴けばいいのです。
HelenMerrill.Com 公式サイト
6/25/2005
6/18/2005
アルバート=アイラー「ホリー ゴースト」
いやあ、もうすっかり「アイラー祭り」状態です。今回も迷いましたが、えぬろぐはその週に聴いたものを正直にご紹介するというのが趣旨なので、またアイラーを取りあげます。フリー嫌いの方、すいませんね。
前回取りあげた中上健次氏の書籍の他に、取寄せ中のアイラーに関する資料とは今回の9枚組CDボックスセットのことであった。これが昨年秋にリリースされた時は、僕もその内容に驚いたが、正規盤でないいわゆるプライベート録音のコレクションということで、果たして買って何度も聴くかなあという疑問があって、高い価格(アマゾンで約1万3000円)ということもあってその時は見送ることにしていた。
しかし、最近のアイラー祭りでその抑制もあっさり打ち破られ、欲求の趣くままにもう「買うならいましかないと」購入ボタンを押してしまった僕であった。今回はじめて、アマゾンのマーケットプレイスで輸入CDを安価に販売する事業者caiman americaを利用することにした。アマゾンに比較して3500円の価格差はやはり魅力的である。多少時間がかかったが、アメリカのアマゾンで注文するのとほとんど変わらない。ちなみにこのセットは国内の輸入CD販売店店頭では16000〜18000円程度の値段で売られている。
内容はプライベート録音を中心にアイラーの演奏を収録したCDが7枚と、アイラーの遺したインタビューを収録したCDが2枚。そしてブックレットやアイラーを偲ばせるアイテムが付録でつけられている。音源はほとんどすべて未発表のもので、1962年にヘルシンキで収録されたセッション(いきなりロリンズのナンバーで始まる)や、セシル=テイラーとの共演、自身のトリオ、クィンテットでの演奏、ジョン=コルトレーンの葬儀での演奏(!)、ファラオ=サンダースとの共演、そして前回ご紹介したフランスでの最後の演奏と同時期の演奏などが収められている。
ちなみにタイトルの"Holy Ghost"とはアイラーがコルトレーンの葬儀で語ったと言う次の言葉から来ている。
聴いてみて驚いたのは音質が意外にもいいこと。これはこのセットを制作した人たちの努力の賜物に違いない。CDの中身だけでなく、ボックス全体の隅々にまで制作者のアイラーへの想いがゆきわたっている。日本のアーチストでこういった付録つきコンプリートボックスというものを見かけるが、資料の入手困難さなどを考えれば、とにかくこのセットの完成度は常識を超えている。僕もこれほどのものを購入するのは初めてである。
膨大な内容なので、演奏についてコメントするのはもう少し先のことにしたい。今回はちょっと子供っぽいのだが、このボックスセットが届けられた時の興奮を少しでも再現してお伝えしようと思い、ルール違反ではあるが、以下に写真でその概要をお伝えしようと思う。
これを見てぐっと来た人もいれば、呆れた人もいるかと思う。反応は人それぞれ様々だと思うが、僕自身も含め、ここから学ばなければいけないなと思うことが一つある。それは「いい仕事」とはまさにこのボックスセットのようなものだということ。好きでなければここまでは絶対に出来ないだろう。そして、まったく同じことがアイラーの演奏についても言えるのだ。
ブックレットには貴重なアイラーの未公開写真が収録されているが、多くの写真は笑顔のアイラーだった。そのことに僕はとても満足だ。じっくりとアイラーの「笑顔のフリージャズ」を堪能したいと思う。
revenant records このセットを企画制作発売している会社です このセット以外にもマニアックな発掘盤がいっぱい
Albert Ayler アイラーについてのほとんどのことがここでわかります
前回取りあげた中上健次氏の書籍の他に、取寄せ中のアイラーに関する資料とは今回の9枚組CDボックスセットのことであった。これが昨年秋にリリースされた時は、僕もその内容に驚いたが、正規盤でないいわゆるプライベート録音のコレクションということで、果たして買って何度も聴くかなあという疑問があって、高い価格(アマゾンで約1万3000円)ということもあってその時は見送ることにしていた。
しかし、最近のアイラー祭りでその抑制もあっさり打ち破られ、欲求の趣くままにもう「買うならいましかないと」購入ボタンを押してしまった僕であった。今回はじめて、アマゾンのマーケットプレイスで輸入CDを安価に販売する事業者caiman americaを利用することにした。アマゾンに比較して3500円の価格差はやはり魅力的である。多少時間がかかったが、アメリカのアマゾンで注文するのとほとんど変わらない。ちなみにこのセットは国内の輸入CD販売店店頭では16000〜18000円程度の値段で売られている。
内容はプライベート録音を中心にアイラーの演奏を収録したCDが7枚と、アイラーの遺したインタビューを収録したCDが2枚。そしてブックレットやアイラーを偲ばせるアイテムが付録でつけられている。音源はほとんどすべて未発表のもので、1962年にヘルシンキで収録されたセッション(いきなりロリンズのナンバーで始まる)や、セシル=テイラーとの共演、自身のトリオ、クィンテットでの演奏、ジョン=コルトレーンの葬儀での演奏(!)、ファラオ=サンダースとの共演、そして前回ご紹介したフランスでの最後の演奏と同時期の演奏などが収められている。
ちなみにタイトルの"Holy Ghost"とはアイラーがコルトレーンの葬儀で語ったと言う次の言葉から来ている。
"Trane was the father. Pharoah was the son. I was the holy ghost."(コルトレーンは父であり、ファラオ(=サンダース)はその子。そして私は精霊なのだ)これが宗教におけるいわゆる三位一体の原点と言われる「父と子と精霊」から来ているのは明らかである。このあたりからも彼のなかでの宗教の位置づけがよくわかる。
聴いてみて驚いたのは音質が意外にもいいこと。これはこのセットを制作した人たちの努力の賜物に違いない。CDの中身だけでなく、ボックス全体の隅々にまで制作者のアイラーへの想いがゆきわたっている。日本のアーチストでこういった付録つきコンプリートボックスというものを見かけるが、資料の入手困難さなどを考えれば、とにかくこのセットの完成度は常識を超えている。僕もこれほどのものを購入するのは初めてである。
膨大な内容なので、演奏についてコメントするのはもう少し先のことにしたい。今回はちょっと子供っぽいのだが、このボックスセットが届けられた時の興奮を少しでも再現してお伝えしようと思い、ルール違反ではあるが、以下に写真でその概要をお伝えしようと思う。
ボックスの全体(左にあるのは通常のCDケース)
ボックスにつけられた帯にはタイトルとともにあの言葉が...
重厚な彫刻が施されています...
ケースを開けると208ページのブックレットが入っています
これがこのセットのすべてのコンテンツです
ブックレットのページから。コルトレーン自身の遺言に従って彼の葬儀で演奏するアイラーグループ!
ブックレット内側の装丁。きれいです。
アイラー活動当時のミニコミ誌2種類とスラッグズサルーンでのライブを告知するフライヤー(いずれもレプリカです)
ヨーロッパのホテルのメモ用紙に綴られたアイラー自筆の手紙(左)12歳のアイラー少年の写真(右)
特別付録はアイラー軍楽隊時代の演奏を収録したCD。テープケースをジャケットに、保管記録紙をCDレーベルにあしらえてあります
そして一輪のドライフラワーが供えられています(アーメン...)
ボックスにつけられた帯にはタイトルとともにあの言葉が...
重厚な彫刻が施されています...
ケースを開けると208ページのブックレットが入っています
これがこのセットのすべてのコンテンツです
ブックレットのページから。コルトレーン自身の遺言に従って彼の葬儀で演奏するアイラーグループ!
ブックレット内側の装丁。きれいです。
アイラー活動当時のミニコミ誌2種類とスラッグズサルーンでのライブを告知するフライヤー(いずれもレプリカです)
ヨーロッパのホテルのメモ用紙に綴られたアイラー自筆の手紙(左)12歳のアイラー少年の写真(右)
特別付録はアイラー軍楽隊時代の演奏を収録したCD。テープケースをジャケットに、保管記録紙をCDレーベルにあしらえてあります
そして一輪のドライフラワーが供えられています(アーメン...)
これを見てぐっと来た人もいれば、呆れた人もいるかと思う。反応は人それぞれ様々だと思うが、僕自身も含め、ここから学ばなければいけないなと思うことが一つある。それは「いい仕事」とはまさにこのボックスセットのようなものだということ。好きでなければここまでは絶対に出来ないだろう。そして、まったく同じことがアイラーの演奏についても言えるのだ。
ブックレットには貴重なアイラーの未公開写真が収録されているが、多くの写真は笑顔のアイラーだった。そのことに僕はとても満足だ。じっくりとアイラーの「笑顔のフリージャズ」を堪能したいと思う。
revenant records このセットを企画制作発売している会社です このセット以外にもマニアックな発掘盤がいっぱい
Albert Ayler アイラーについてのほとんどのことがここでわかります
6/11/2005
アルバート=アイラー「ニュイット デュ ラ フォンダシオン マグー 1970」
前々回のろぐでとりあげたアルバート=アイラーをそのまま引きずった一週間だった。通勤の行き帰りはそこでとりあげたアイラーの3つの作品だけを繰返し聴いた。家ではなかなか聴くことはできないので我慢したが、彼の音を欲する状態で他の音楽を聴くのなら、何を聴いてもあまり響いてこないものだった。押し入れにはまだ他に彼のCDが数点眠ってあるのだが、面倒なのでそのままにしてある。その分、3つの作品を久しぶりに何度も繰返し聴けたのはよかった。ヘッドフォンステレオだったのがやや残念である。
前回のろぐでアイラーに関する資料を取寄せ中と書いた。うち一点が中上健次氏の「破壊せよ、とアイラーは言った」だった。この本は現時点では絶版になっていて、僕はインターネットの中古取引で文庫本を手に入れた。手元に届いたのは1983年発売の集英社文庫で定価は260円だった。それが800円近くもした(元値がいくらかわからなかったのだ)。
思えば本は随分高くなった。僕の記憶では、これが発売された高校生の頃、新潮文庫から出ていたサガンの「悲しみよこんにちわ」が80円だった。いまではこれと同じ位の厚さの文庫本一冊が500円前後する。中身の様子も大きく変わった。文字は大きい、行間は広い、カタカナと台詞が多い。別に悪いと言っているのではない。本に限らず、時代が変わればスタイルは変わるのだ。
アイラーのことを書いたときに、僕は嫌でもこのタイトルの言葉を思い出した。これが本のタイトルであることらしいのは知っていたが、誰のどういう作品であるかはうろ覚えだった。日本でアイラーの作品を探し求める人にとって、アイラーのことについて書かれたものを目にしているうちに、この言葉はいつか勝手にその目に入りこんでくる。まるで日本のアイラー論を代表しているかのようだ。だからこの本の内容も、きっと陰鬱な1970年代の青春日記に違いない、と勝手に決めつけていたのだ。
目次をながめてみると、アイラーを始めとするジャズのアルバムタイトルが7つの章につけられていて、内容は小説ではなく、中上健次氏が自身の半生をその時代を象徴するジャズ作品に絡めて綴ったエッセイだった。考えてみればこのろぐもそれに似ているなと思うと、なにか親しみがわいた。内容はさすがに当時を感じさせるものだったが、日頃あまりこの手の文章を読まないせいか、なかなか面白く読めた。
僕と中上さんは同じ和歌山県の生まれだが、彼の生まれた新宮は僕の生まれた北部とはかなり異なる土地だと思う。歳は僕の18歳上であるから、同じ時代を生きたとは言えない。やはりちょっとうらやましいのは、ジャズが彼にとってコンテンポラリー音楽であること。でもその時代は僕の同じ頃とは異なる意味での苦悩の時代だった。「破壊」はその時代の若者に共通する直接的な憧憬だった。その先の目的があったのかは極めて疑わしいのだが。
それでもやはり僕はこの本のタイトルはいただけない。アイラーを知らない人に「アイラー=破壊」というイメージを勝手に刷り込むのはよくない。僕の耳に届くアイラーは「破壊せよ」とはまったく言っていない。その思いはアイラーをはじめて聴いてからいまも変わらない。今回の作品で聴かれるように、彼の音は最後までどこまでも明るい音楽なのである。
一連の楽曲に彼がつけたタイトルから、彼の音楽的な原点が精神的なものにあることは明確である。そして「スピリッツリ ジョイス」のテーマとしてフランス国家「ラ マルセイエーズ」が引用されているあたり、彼が音楽で目指したものは、破壊することよりもその先にある理想に向けられている。気高いのだ。僕がアイラーの音楽を「笑顔のフリージャズ」というのはそういうことである。
先を見たものは長生きする。刹那的なものの寿命は短い。
この作品に収められている、自身の音楽を総決算するかのようにひたすらに吹き捲くる彼の姿は、本当に素晴らしい。全編通して素晴らしいが、あえて聴き所をあげるなら、冒頭の感動的な旋律「イン ハーツ オンリー」、そして3曲目「ホリー ファミリー」ロリンズの演奏にもこれほどまでに愉快に吹きまくるものは稀だろう。そしてそれらを素直に受け入れて熱狂するフランスの観客たち。80分間があっという間に過ぎる感動のラストコンサートである。
いままで無視してきた本のことが気になり、とうとう読んでみることにしたのだが、結果的には確認と誤解がバランスよく解決し、僕にとっては意味のある出来事になった。それほど今回の僕のアイラーブームは大きいということだろう。なにせ他にもう一点高価な資料を取り寄せているのだから。それについては未着なのでまたいずれ。
CAPE 中上健次公式サイト
Maeght | Art moderne et contemporain マグー現代芸術財団公式サイト
前回のろぐでアイラーに関する資料を取寄せ中と書いた。うち一点が中上健次氏の「破壊せよ、とアイラーは言った」だった。この本は現時点では絶版になっていて、僕はインターネットの中古取引で文庫本を手に入れた。手元に届いたのは1983年発売の集英社文庫で定価は260円だった。それが800円近くもした(元値がいくらかわからなかったのだ)。
思えば本は随分高くなった。僕の記憶では、これが発売された高校生の頃、新潮文庫から出ていたサガンの「悲しみよこんにちわ」が80円だった。いまではこれと同じ位の厚さの文庫本一冊が500円前後する。中身の様子も大きく変わった。文字は大きい、行間は広い、カタカナと台詞が多い。別に悪いと言っているのではない。本に限らず、時代が変わればスタイルは変わるのだ。
アイラーのことを書いたときに、僕は嫌でもこのタイトルの言葉を思い出した。これが本のタイトルであることらしいのは知っていたが、誰のどういう作品であるかはうろ覚えだった。日本でアイラーの作品を探し求める人にとって、アイラーのことについて書かれたものを目にしているうちに、この言葉はいつか勝手にその目に入りこんでくる。まるで日本のアイラー論を代表しているかのようだ。だからこの本の内容も、きっと陰鬱な1970年代の青春日記に違いない、と勝手に決めつけていたのだ。
目次をながめてみると、アイラーを始めとするジャズのアルバムタイトルが7つの章につけられていて、内容は小説ではなく、中上健次氏が自身の半生をその時代を象徴するジャズ作品に絡めて綴ったエッセイだった。考えてみればこのろぐもそれに似ているなと思うと、なにか親しみがわいた。内容はさすがに当時を感じさせるものだったが、日頃あまりこの手の文章を読まないせいか、なかなか面白く読めた。
僕と中上さんは同じ和歌山県の生まれだが、彼の生まれた新宮は僕の生まれた北部とはかなり異なる土地だと思う。歳は僕の18歳上であるから、同じ時代を生きたとは言えない。やはりちょっとうらやましいのは、ジャズが彼にとってコンテンポラリー音楽であること。でもその時代は僕の同じ頃とは異なる意味での苦悩の時代だった。「破壊」はその時代の若者に共通する直接的な憧憬だった。その先の目的があったのかは極めて疑わしいのだが。
それでもやはり僕はこの本のタイトルはいただけない。アイラーを知らない人に「アイラー=破壊」というイメージを勝手に刷り込むのはよくない。僕の耳に届くアイラーは「破壊せよ」とはまったく言っていない。その思いはアイラーをはじめて聴いてからいまも変わらない。今回の作品で聴かれるように、彼の音は最後までどこまでも明るい音楽なのである。
一連の楽曲に彼がつけたタイトルから、彼の音楽的な原点が精神的なものにあることは明確である。そして「スピリッツリ ジョイス」のテーマとしてフランス国家「ラ マルセイエーズ」が引用されているあたり、彼が音楽で目指したものは、破壊することよりもその先にある理想に向けられている。気高いのだ。僕がアイラーの音楽を「笑顔のフリージャズ」というのはそういうことである。
先を見たものは長生きする。刹那的なものの寿命は短い。
この作品に収められている、自身の音楽を総決算するかのようにひたすらに吹き捲くる彼の姿は、本当に素晴らしい。全編通して素晴らしいが、あえて聴き所をあげるなら、冒頭の感動的な旋律「イン ハーツ オンリー」、そして3曲目「ホリー ファミリー」ロリンズの演奏にもこれほどまでに愉快に吹きまくるものは稀だろう。そしてそれらを素直に受け入れて熱狂するフランスの観客たち。80分間があっという間に過ぎる感動のラストコンサートである。
いままで無視してきた本のことが気になり、とうとう読んでみることにしたのだが、結果的には確認と誤解がバランスよく解決し、僕にとっては意味のある出来事になった。それほど今回の僕のアイラーブームは大きいということだろう。なにせ他にもう一点高価な資料を取り寄せているのだから。それについては未着なのでまたいずれ。
CAPE 中上健次公式サイト
Maeght | Art moderne et contemporain マグー現代芸術財団公式サイト
6/05/2005
ウルフ=ワケーニウス「エターニティ」
もう6月である。そろそろ梅雨入りかという感じになってきた。今日も午後は雨と伝えられていたが、見事に晴れた。久しぶりにウェアに着替えて多摩川沿いを軽く歩いてみた。空気や日差しはもはや心地よいという域値を少し超えていたけど、1時間程度のウォーキングは快適だった。
前回のろぐでアイラーをとりあげたせいで、先週の通勤では、あの作品とマイルスの「ビッチズ ブリュー」を交互に聴く毎日だった。意外にこの取り合わせが絶妙で、アイラー30分間の咆哮に続く「ファラオズ ダンス」がとても自然である。アイラーについてはその後いろいろ資料収集を行っており、もう少し整理したうえで書いてみたいと思う。
今回は少し以前に購入してとても気に入っている、スウェーデン出身のジャズギタリスト、ウルフ=ワケーニウスの新作をご紹介したい。ジャケットを見たとき多少前衛的な内容を想像したのだが、「ジョー=パスに捧ぐ」というウルフの言葉通り、全編をギター1本でスタンダード演奏に相対した力作である。
僕は彼のことをこの作品ではじめて知った。ウルフは、あのオスカー=ピーターソン(ジャズピアニストの大御所)のグループで活動し脚光を浴びた逸材である。既に自己名義の作品も数作出しており、この作品はソロ作品としては2作目のものになるらしい。
ジョー=パスと言えば名作「ヴァーチュオーゾ」をはじめとする、信じられないようなソロギター演奏が有名である。僕もあれを狂ったように聴きまくった時期があった。いつかこのろぐでとりあげることになるだろうと思う。あれに匹敵するソロギターはなかなか出ないだろうなあと思っていただけに、このワケーニウスの作品には期待と不安が入り混じった。
内容は実に素晴らしいものである。テクニックはもちろん、ソロで演奏を構成する表現力など音楽性も最高である。ジョー=パスとの違いは、ナイロン弦エレアコギター(ライナーノートに掲載された写真ではゴダン社マルチアックの様に見える)を使用している点である。ナイロン弦と言えば、アール=クルーがある時期にソロやジャズギタートリオ作品を発表していて、それなりに好きではあるのだが、やはりナイロン弦特有のどことなくおしゃれな優しい感じがあって、どうしてもサロン風に聴こえてしまう(まあその狙いもあるのだろうが)。ここでのウルフの演奏は、その音色を時には優しく、時にはミステリアスに、そして時には激しくと多彩な表情を見せる。
どの演奏も素晴らしいのだけど、やはりラストに収録されたロリンズの「ゼア イズ ノー ビジネス ライク ショウ ビジネス」が圧巻である。実にさりげなく展開される超ハイテクなノリノリ演奏。もうこの1曲のためだけに購入しても十分おつりがくる。はじめてこの手の演奏をお聴きになる方には、これが一人で演奏しているということが絶対に信じられないだろう。上記ジャケット写真から発売元のサイトにリンクを貼ったので、「曲目リスト・試聴」のところから是非とも試聴してみて欲しい。
もう少し彼の他の作品を聴いてみたくなった。そういう場合には、得てして他の作品に手を出すとスベる危険性が高いのだが、彼の場合はなんとなくその点は大丈夫そうだ。
Spice of Life Inc.
Godin Guitars カナダのギターメーカ「ゴダン」公式サイト ここのギターは魅力的です(高いけど)
前回のろぐでアイラーをとりあげたせいで、先週の通勤では、あの作品とマイルスの「ビッチズ ブリュー」を交互に聴く毎日だった。意外にこの取り合わせが絶妙で、アイラー30分間の咆哮に続く「ファラオズ ダンス」がとても自然である。アイラーについてはその後いろいろ資料収集を行っており、もう少し整理したうえで書いてみたいと思う。
今回は少し以前に購入してとても気に入っている、スウェーデン出身のジャズギタリスト、ウルフ=ワケーニウスの新作をご紹介したい。ジャケットを見たとき多少前衛的な内容を想像したのだが、「ジョー=パスに捧ぐ」というウルフの言葉通り、全編をギター1本でスタンダード演奏に相対した力作である。
僕は彼のことをこの作品ではじめて知った。ウルフは、あのオスカー=ピーターソン(ジャズピアニストの大御所)のグループで活動し脚光を浴びた逸材である。既に自己名義の作品も数作出しており、この作品はソロ作品としては2作目のものになるらしい。
ジョー=パスと言えば名作「ヴァーチュオーゾ」をはじめとする、信じられないようなソロギター演奏が有名である。僕もあれを狂ったように聴きまくった時期があった。いつかこのろぐでとりあげることになるだろうと思う。あれに匹敵するソロギターはなかなか出ないだろうなあと思っていただけに、このワケーニウスの作品には期待と不安が入り混じった。
内容は実に素晴らしいものである。テクニックはもちろん、ソロで演奏を構成する表現力など音楽性も最高である。ジョー=パスとの違いは、ナイロン弦エレアコギター(ライナーノートに掲載された写真ではゴダン社マルチアックの様に見える)を使用している点である。ナイロン弦と言えば、アール=クルーがある時期にソロやジャズギタートリオ作品を発表していて、それなりに好きではあるのだが、やはりナイロン弦特有のどことなくおしゃれな優しい感じがあって、どうしてもサロン風に聴こえてしまう(まあその狙いもあるのだろうが)。ここでのウルフの演奏は、その音色を時には優しく、時にはミステリアスに、そして時には激しくと多彩な表情を見せる。
どの演奏も素晴らしいのだけど、やはりラストに収録されたロリンズの「ゼア イズ ノー ビジネス ライク ショウ ビジネス」が圧巻である。実にさりげなく展開される超ハイテクなノリノリ演奏。もうこの1曲のためだけに購入しても十分おつりがくる。はじめてこの手の演奏をお聴きになる方には、これが一人で演奏しているということが絶対に信じられないだろう。上記ジャケット写真から発売元のサイトにリンクを貼ったので、「曲目リスト・試聴」のところから是非とも試聴してみて欲しい。
もう少し彼の他の作品を聴いてみたくなった。そういう場合には、得てして他の作品に手を出すとスベる危険性が高いのだが、彼の場合はなんとなくその点は大丈夫そうだ。
Spice of Life Inc.
Godin Guitars カナダのギターメーカ「ゴダン」公式サイト ここのギターは魅力的です(高いけど)
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