8/22/2004

宮藤官九郎/河原雅彦「鈍獣」

  今回は音楽の話はお休みである。その代わりと言っては何だが、渋谷のパルコ劇場で舞台劇を鑑賞したのでそれについて少しばかり書いておこうと思う。

 演劇と言えば、小学校から高校生までの間には、何年かに1回の割合で観る機会があった。もちろん授業の一環であって、テーマは戦争だったり同和問題だったりした。大学時代になると、学園祭で演劇部のアングラ劇などの上演もあったようだが、ともかく母校の学園祭には一度も顔を出したことがないので、そういうものを観る機会はなかった。就職して上京すると、ちょうど東京は小劇場ブームの真最中で、カルチャー誌には必ずと言っていいほど何らかの演劇のレビューが載っていたのは知っていた。しかし根っからの音楽マニアがそんなものに興味を示すわけもなく、結局、こちらに来てもただの一度も演劇を観る機会などなかったのだ。

 3年前、仕事の関係である異業種交流会の様な勉強会にメンバーとして、半年間ほど参加することになった。この勉強会は、あるCMプロデューサが企業人を集めてプロデュースとは何かを伝授するというもので、毎回、世の中ではかなり名を知られたいろいろな分野の講師がやってきて、ご講義を拝聴し、討議を行うと言うものだった。その中で、つかこうへい氏の「新・幕末純情伝」という作品を観覧する機会に恵まれた。この時は内田有紀がヒロインを務めており、僕はほとんどその程度のミーハ根性で出かけた(というより受講した)わけだが、意外にも舞台の世界に引き込まれてしまい、なかなか悪くないものなのだなと感じた。それでも、それ以降自分で切符を買い求めて舞台を観る機会はやはりなかった。

 今回の「鈍獣」は、JR武蔵溝ノ口駅近くにある、和歌山ラーメンのお店「まっち棒(MATCH-BO)」に2ヶ月ほど前に入ったことがきっかけだった。このお店は、店長の趣味なのかはたまた心の本業なのか、カウンターに演劇やライブのチラシがよく貼ってあり、その日僕がたまたま座った席の目の前に、この芝居のチラシが貼ってあったのだ。僕の目には暑苦しい3人の男優(生瀬勝久、池田成志、古田新太)となかなか魅力的な3人の女優(西田尚美、乙葉、野波麻帆)を対比したそのチラシにしばらく留り、その内容に興味を持ったのである。

 宮藤官九郎の名前は、聞いたことはあってもそれが誰なのかほとんど知らなかった。この作品の告知ホームページを妻に見せて、それがいま非常に人気のある劇作家なのだと知る。後に映画「世界の中心で愛を叫ぶ」に脇役で出演していることなども知った。妻は宮藤作品ということもあって興味をもったが「人気あるからチケットはとれないんじゃないの」と言った。東京公演だけで26回もあるのだから、まあ何とかなるんじゃないのと思っていた僕だったが、それは甘かったようで、一般発売前にほとんどが売り切れという状況。もちろん確保することはできなかった。

 仕方ないなと、諦めていた先月の半ば、さきの勉強会の同窓会の様なものがあり、そこのメンバーに今回の鈍獣をプロデュースする会社の偉い方がいた。これも何かの縁かと冗談半分にその話を彼にすると、「あっ、そうなの」と言われて、しばらくしてチケットが2枚僕の家に送られてきたのである。こういうものはこういうもんだ、とわけのわからないような納得を無理無理しながら、昨日の東京ラス前公演を観ることができた。会場はもちろん満席で、年齢層は20〜30代が中心、女性の姿が目立った。客席では女優の奥菜恵さんとその夫の姿を見かけた。

  まだ地方公演もあるし、いずれテレビでも放映されるようなので、ストーリ等については書かない。ストーリ構成は、タランティーノの映画「パルプ・フィクション」を思わせるもので、なかなか憎いものだったとだけ書いておこう。ともかく、今回の観劇体験は僕にとってはなかなかのインパクトがあった。役者の個性、ストーリ、演技、笑い、テンポ、演出、舞台装置などいろいろなところで感心させられた。やはり目の前のステージで生身の人間が行うパフォーマンスの素晴らしさ、それがあらためて僕を新鮮な気分にしてくれた。考えてみれば、あまり好ましいことではないのかもしれない。やはり何事も感動の本質は生、ライブである。

 ということで、また新しいものをひとつ体験することができた週末であった。

 なお公演前に、渋谷でCD屋さん巡りを行い、また3枚ほど面白いものを仕入れたので、次回は再び音楽に戻ってそのどれかについて書いてみたいと思っている。

鈍獣 公式サイト
大人計画
西田尚美公式頁
otoha.tv 乙葉公式サイト
野波麻帆
MATCH-BO

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