6/06/2004

行定勲/片山恭一: "世界の中心で愛を叫ぶ"

  妻が原作を読んだら観てみたくなったので行こうと誘われ、片山恭一の「世界の中心で愛を叫ぶ」を川崎のシネコンに観に行った。原作がベストセラーで映画もかなりの人気ということで、僕の場合は期待も不安もそれほどではなかったのだけど、映画館が久しぶりだったし、柴咲コウが出るというので、まあテレビドラマを観るようなつもりで行くことにした。作品のストーリー自体は悲しい内容が中心だが、僕自身はそれよりも、懐かしさと清々しさのようなものを感じて、なかなか楽しめた作品だった。決して悲しいだけの映画ではない。

 久しぶりに映画館に足を運んだ。1年半ほど前に腰を悪くして以降、ホールの座席や応接のソファーなど低く深く腰掛ける椅子が苦手になってしまい、映画館もしばらくご無沙汰であった。最近になってようやく調子がよくなって来たものの、いざ行こうと思っても、観たいという気になる映画がなかったりする。僕は最近、ハリウッド映画を劇場で観ることはほとんどなくなった。たぶんマトリックスの1作目が最後だったと思う。僕が映画に求めるのは、CGで演出されたスリルやファンタジーではなく、人間が演じる日常と人間性が中心になったようだ。

 物語の舞台となっている1986年といえば僕は大学3年生。もう高校を卒業して3年が経過したころだ。僕の高校生活は、楽しい思い出もあるが、ときめき的なものは特になかった。部活の思い出も修学旅行の思い出も特にない。そんな懐かしくも空虚な思い出しかない僕には、アキ役の長澤まさみはまぶしく映った。四国高松という海辺の舞台は、僕が高校2年生まで住んでいたところにそっくりだった。佐野元春の名曲「Someday」にのせて展開するああいう青春は、僕の現実にはなかったが、時代や土地柄が必ずしも大きく違っていない自分には、それがあり得なかったわけではないことに懐かしさと清々しさを感じさせてもらえた。

 アキの白血病という病気と入院生活、そして病死ということには、やはり自分の母親のことを思わずにはいられなかった。薬の副作用で髪が抜けてしまい、無菌病棟に忍び込んで遭いに来た主人公に「えへ、こんなになっちゃった。。。」と無理に照れ笑いするシーンには、ちょっと涙が出そうになる。

 映画の最後の方で、山崎努が扮する近所の写真屋の親父が主人公に言うセリフ、「天国なんてものは生き残った人間が勝手に作り出したもの。逝ってしまった人はそこにいる、いつかきっとまた会える。そういう思いが作らせたものだ。生き残った人間がやらなければいけないのは、後かたづけだ」。それと、オーストラリアの先住民族が主人公に言うセリフ、「我々は死者を2回埋葬する。1回目は肉を2回目は骨を。そうすることで死者の血がこの地にしみ、地中にある泉に流れ込む。我々はそのおかげで生きていける」。この2つのセリフに、意外にも急速に変化しつつある現代の我々の死に対する新しい見方が表されているように思った。「世界の中心」は人間が本能的に向かうところを象徴しているのかもしれない。

 ところで、この映画に出演している長澤まさみはと柴咲コウは、ともに映画「黄泉がえり」に出演している。僕はこの作品を以前にビデオで観た。ストーリは決して悪くないと思うのだが、テレビで見かけるタレントがたくさん出てくるわ、場面の展開が単調だわ、などなど気に入らない点が多かった。さながらテレビドラマの様な感じだった。

 それに比べて、この「世界の・・・」は、多少強引な設定などがあって気にならないわけではないが、映画として十分に楽しむことができた。観ようか観まいか迷っている方がいるなら、映画館でご覧になることをお勧めしたい。ただ残念なことに、テレビドラマ化が決定したとのこと。製作委員会にテレビ局が入っているので、いた仕方ないとは思うのだけど、せっかく大きなキャンバスに描いたものを、わざわざまた小さくする必要があるのだろうかと思うと、残念である。この手の話で作品として成功した例を僕は知らない。ビジネスとしてみれば必然のことなのだろうが、そういう発想そのものがなにか時代遅れの感じがする。

 ちなみに、この作品名をはじめて耳にしたとき、僕は真っ先にアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビシリーズ最終話のタイトル、「世界の中心でアイを叫んだけもの」を思い出した。この両者に何か関連はあるのだろうか。ご存知の方は教えてください。

 映画館には若い人からお年寄りまでいろいろな人がこの作品を観にやってきていた。終わって退出する時に、皆それぞれいろいろな感想を口にしていた。原作の小説とは設定などでかなり異なる点があるらしいが、それは映画化のお約束であると思う。映画を見終わり、そして映画に集ってきた人たちの表情を観ているうちに、あらためて映画はやっぱりいいものだなと感じた。これからまた映画館にちょくちょく足を運ぶようにしたいと思う。もう少し入場料が安ければいいのだが。

「世界の中心で愛を叫ぶ」公式サイト
-Peace- Masami Nagasawa(長澤まさみ公式サイト)
もっと高松(香川県高松市公式サイト)
Moto's Web Server(佐野元春公式支援サイト)
わかりやすい白血病の話
新世紀エヴァンゲリオン公式サイト