11/19/2011

アセンション プリーズ!

先週は和歌山への家族旅行のため、ろぐはお休みとさせていただいた。その時の模様はまた後ほど写真でご紹介したいと思っている。

さて、ブラクストン祭に始まったフリー祭は現在もなお延焼中である。実は旅行をはさんだこの2週間というものは、それがすっかり「アセンション祭」となってしまっており、炎の勢いは容易に収まりそうにない。

「アセンション」はサックス奏者ジョン=コルトレーンが1965年に収録した作品。これを境に以後の演奏がフリージャズに傾斜したことから、コルトレーンのフリージャズ宣言などと言われたりする。

ことの発端は2週間前の4連休のある日、独りで横浜市街をウロウロしていた際に入ったディスクユニオンで、ローヴァ(サキソフォンクァルテット)による"Electric Ascension"という中古CDを見つけてしまったことにはじまる。

既にアランの店などで円高差益還元と称して買った、8枚のCDが到着するのを心待ちにしていたのだが、この発見物はどうしても気になった。

ローヴァのアセンションといえば、以前このろぐでもご紹介した1995年の作品があるが、この"Electric Ascension"はその8年後の2003年に収録されたもの。

95年版が編成や構成の面で原作に極めて忠実な内容であったのに対して、本作はそのタイトルにある通り、ホーンはローヴァの4人だけで、あとはニルス=クラインにフレッド=フリス、クリス=ブラウン、イクエ=モリ、大友良英等々という超豪華メンバーによる、エレキギター・ベース、ヴァイオリン、ターンテーブル、サンプラー、コンピュータといった電気屋が集結した「アセンション電化版」という内容になっている。

中古盤かと思いきや実は新古品で、しかもたった900円という値付けに、到着待ちの8枚のことも忘れて、思わず買ってしまった。

演奏時間は63分。オリジナルに忠実だった前作からは一聴してかなり趣の異なる演奏かもしれないが、それでもこれは紛れもないコルトレーンのアセンションであり、時代の流れを加味して進化させた素晴らしいインタープリテーションだ。

95年の演奏後に再びこれを演奏し、さらにCDとして発表するまでに至った経緯を、ローヴァのリーダーであるラリー=オッシュがじっくりと正直に綴ったライナーノートも、一読の価値がある。

そこにも書かれているが、いま現在でもアセンションをフルに演奏した記録は、コルトレーン自身による2つのテイクと、ローヴァによるこれら2つのバージョンの4つしかない。

最新電化版のあまりの素晴らしさに、僕はそれら4つの演奏をiPodに入れて、この2週間というもの朝夕の通勤時間を中心に繰り返し聴き続けた。これがアセンション祭の真相である。

今回、アセンションをじっくりと聴いてみて、作品について少しだけ書いておきたいと思ったことがある。

アセンションがフリージャズの曲であることはもちろんだが、その構成については世の中に少し誤解があるように思う(そしてその誤解はご多分に漏れず、ちゃんと聴いていない人が作り出したものだと思う)。

この音楽は2つのテーマを持っている。ひとつは最初と最後に出てくる有名なテーマ、そしてもうひとつは最初のテーマの後にソロ演奏への受け渡しの役割を兼ねて現れる長めのテーマである。

アセンションの構成について「集団即興とソロ演奏が交互に繰り返される」という表現をよく目にするのだが、集団即興と言われている部分は、2つ目のテーマを全員で演奏する中でその変奏として行われているということは、予め知っておいた方がよいと思う。

そしてこの2つ目のテーマこそ紛れもないコルトレーンメロディとハーモニーであり、この録音の少し前に発表された傑作「クレセント」に収録されたコルトレーン3大バラード、すなわち"Crescent", "Wise One", "Lonnies' Lament"のハーモニーと極めて共通性を持つ美しい音楽なのである。

今回、こんなに何度も(20回以上になるか)繰り返してアセンションを聴くことになるとは思ってもみなかったわけだが、もちろんそれぞれの版で展開されるソロ演奏の素晴らしさもさることながら、それを楽しむ一方で、曲が展開するたびに繰り返されるこの2つ目のテーマの再現を心待ちにするようになる自分がいることを理解した次第である。まさにあのテーマこそが「降臨」の瞬間を現したものだと言ってもいいだろう。

話のついでに脱線すると、コルトレーンのバラード演奏は素晴らしいものだが、僕自身それは彼のオリジナル曲においてのことだと思っている。スタンダード集として有名なアルバム「バラード」は、僕にとっては平凡な作品だ。あれはコルトレーンのアルバムというよりは、(プロデューサの)ボブ=シールのアルバムだ。

先の3大バラードに、"Dear Load", "Welcome", "Peace On Earth"を加えた内容でアルバムを作れば、それが本当の「バラード」と言えるものになるだろう。

さて、話を"Electric Ascension"に戻すと、ここではソロ演奏という形態ではなく、メンバー数名による即興演奏という形になっている。その組み合わせ方については事前に慎重な検討がなされたことがライナーには記述されている。

その甲斐あって、各パートは従来の演奏ではあり得なかった面白さに満ちている。クリスとモリによるエレクトロニカセッションや、ジョーのバリトンと大友のターンテーブルが激突する場面は特に印象的だ。この手の音を聴き慣れない人には、ちょっとしたハードルになるかもしれないが、是非ともトライしてみていただきたい。

この作品に巡り合えたことで、僕にとってのアセンションはすっかりスタンダードになってしまった。本当にヨカッた!雨が激しく降る今夜は、自宅のスピーカーでじっくりと聴いてみたいと思っている。

アセンション プリーズ!

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