4/04/2010

楽園への道

このところ音楽の話題が少ないのは、また仕事の行き帰りに読書をしていたから。読んでいたのはペルーの作家マリオ・バルガス=リョサが書いた小説「楽園への道」。先にご紹介したケルアックの「オン・ザ・ロード」と同じ河出書房新社世界文学全集の第2巻である。竹之丸地区センターのライブラリで借りた。

この小説は19世紀前半を生きた女性活動家フローラ=トリスタンと、19世紀後半を生きた画家ポール=ゴーギャンのそれぞれの半生を綴った物語り。それぞれの人物が後世に名を残すことになる人生への第1歩を踏み出した時から亡くなるまでを描いている。すなわち、トリスタンは労働運動家としての行脚に旅立つその日から、ゴーギャンはパリを離れてタヒチに渡るその日から物語りが始まる。

全部で22の章からなり、フローラとポールそれぞれのお話がかわりばんこに現れる構成。物語りの途中でわかることなので、種明かし的になってしまうかもしれないが、ある程度知られた史実であるということに免じて書くと、実はこの2人は血縁関係にある。すなわちフローラはポールの祖母にあたるのだ。しかし2人の間には面識はない。

章ごとに半世紀の時間が前後し、地理的舞台も赤道と日付変更線を何度も前後する。さらにそれぞれの物語のなかでも、己の人生の前半を回想するシーンが何度も現れ、ポールの章のなかで突如として祖母フローラの逸話が語られたりする。壮大なスケールでの時間と空間を描く構成はまさに圧巻である。

本をこれまであまり読んでいなかった僕が言うのも説得力がないのかもしれないが、じっくりと時間をかけた、地道な取材と緻密な構成で描かれたこうした作品こそ、文学が本来もつべき醍醐味だろうと思う。一時の思いつきでさらりと描かれる最近の人気小説には、切なくももろい感性に満ちているが、人の心を捉えて揺さぶる力の差は歴然としたものがあると思う。

最終章で克明に描かれる2人それぞれの死に様が、異なる時空を行き来して綴られてきた2つの人生の物語りが、作品のタイトルである「楽園への道」という言葉によって、はかなくも見事に結びつけられるようで感動的だ。僕はまだ本を読んで涙を流したことはないが、ゴーギャンの命が消え入ろうとする最後のシーンでは、涙腺がうるうると来てしまった。

今回はいろいろあって2週間の貸し出し期間内に読み切ることができず、3週間お借りしてしまいセンターにはご迷惑をおかけした。ゆっくりとではあったが完読することができ、得難い感動をものにすることができたことに感謝したい。

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