2/27/2010

降臨から瞑想へ

前回の音楽でコルトレーンのことを書いたが、案の定、最近は彼の演奏を楽しんでいる。中心にあるのは"Major Works of John Coltrane"という2枚組のCD。これは、"Ascension", "OM", "Kuru Se Mama", "Selflessness"という、インパルス時代の中期にリリースされた4枚のアルバムからそのタイトル曲をひとまとめにしたもの。どえらいヘビーなセットだ。

僕はもうインパルス以前のコルトレーンはほとんど聴かない。いまでも時折聴きたくなるのは、ブルーノートの"Blue Train"くらいのもの。プレスティッジの作品は早々に色褪せてしまったし、アトランティック時代の作品は、彼が次々にステップを登る様を見るようで悪くないのだが、やはり続くインパルスに向けた身繕いといったところで、どうしてもそちらの方に手が伸びてしまう。

コルトレーンのインパルス時代は3つに分けられると思う。

前期はエルヴィンやマッコイ等とによるいわゆる「黄金のクァルテット」によるもので、"A Love Supreme"までがそれにあたる。一方の後期はというと、エルヴィンとマッコイが退団してしまって以降亡くなるまでの作品がそうで、"Live at the Villege Vanguard Again"から"Expression"がそれにあたる。そして、この2つのユニットの間にあるのが中期ということになり、作品では"Ascension"から"Meditations"までということになる。

中期の特徴を要約するなら、前期を代表するリズムセクションのエルヴィンとマッコイがいる一方で、ファラオをはじめとする後期の音楽性を代表する新しい若手がいるということ。当然、音楽にはフリーの色彩が強く出てくるのだが、黄金のクァルテットを土台にしているので、全体としては従来の安定感の上に新しい音楽が開花しつつあるという、満開前の梅や桜の様ななんとも微妙な色合いの音楽になっているのが魅力である。

今回、久々にこれら中期の代表作品(果たしてこれを"Major Works"と言ってしまっていいものなのかは意見が分かれるところだと思うが)をまとめて何回か聴き直してみた。

先ず"Ascension"は2つのテイクが収められているが、コルトレーンが当初何を迷って最初のテイクをリリースしたのかわからない。僕の耳にはリリース直後に差し替えられた2番目のテイクの出来が圧倒的にいいのは明らかだ。

ソロの口火を切るトレーン自身の演奏は確かに甲乙つけがたいものがあると思うが、それ以降の音楽の流れ、例えば集団即興とソロの受け渡しや、各人のソロ演奏の出来については、最初のテイクではメンバーがまだこのアイデアを十分に消化できてない感がある。結果、音楽の勢いやパワーにおいて2つのテイクにはかなりの差がある。僕のiPodからは最初のテイクはすでに消去した。

次に"OM"と"Kuru Se Mama"だが、ジュノ=ルイスの詩の朗読を入れてその世界を音楽で体現する試みは、残念ながら僕にはあまりピンと来ない。トレーンやファラオの叫びはそれなりの音楽として聴けるが、音楽のスタイルとしてこういう形でなければならない必然性の様なものがわからない。言葉の意味というか詩の魂が直接的に伝わってくるなら、また異なる感想があり得るのだろうと思うが、器楽音楽の観点からしか受け止められない身には、少々辛い音楽と感じる。

一方、これまであまりまともに聴いてこなかった"Selflessness"は、意外にも素晴らしい作品だということがわかった。コルトレーンらしい美しい旋律をテーマに、ファラオとギャレットを従えた3人のサックスがソロを折り重ね、途中マッコイの見事なソロを経ての3人の集団演奏もこの時期のサウンドとして完成された感がある。これは間違いなく中期を代表する演奏の1つだと思う。

とまあ、ここまで聴いてくると同時期の他の作品もどうしても気になってしまう。いつものコルトレーン病を発症してしまったわけだ。"Live in Seattle"と"Meditations"を改めて聴き直す。

前者はかなり荒削りな印象があるが悪くない。30分を超える大作"Evolution"は素晴らしい名演。途中のトレーンのソプラノソロは他の演奏にはない独自の雰囲気があり、この時の彼の状態を考えると興味深いものだがある(後に現れるギャレットの肉声による叫びは確かに怖い)。その前に置かれたギャリソンとギャレットによる長いベースソロが楽しめるのも僕には嬉しい。

そしてやはり中期の最高傑作は"Meditations"だと思う。ラシッドの参加がエルヴィン脱退のきっかけと言われるなど、いろいろと曰くのあるアルバムだが、音楽の完成度はあの"A Love Supreme"に匹敵するほどずば抜けて高いものだ。大学生の時に初めて聴いて受けた衝撃は、25年たったいまでもいまもそっくりそのまま覚えている。まったく見事な作品だ。

こうして聴いてみるといずれも非常に重みのある見事な作品ばかりで、あらためてトレーンの素晴らしさを実感する。確かに重い音楽だが決して難しいものではないと思う。僕はこれからも折にふれこれらを聴いていくことになるだろうし、このろぐであれ他の何をきっかけにしても、できるだけ多くの人にこれらの作品が聴かれることを切に願う。

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