2/14/2010

ボビーのワイズワン

久々の読書を挟んで、音楽の方はようやくエヴァンス一辺倒から抜け出した。またいろいろなものを聴くようになった。その中から、先日iTunes Storeで購入した作品を1点ご紹介したい。ジャズ ヴァイブラフォン奏者のボビー=ハッチャーソンの新作"Wise One"だ。

タイトルからしてコルトレーンへのトリビュートものとわかるのだが、収録の9曲すべてがコルトレーンのアルバムに収録されているナンバーというのも、かなり気合いの入れようである。僕が知る限り、ボビーとトレーンが直接共演した記録はないと思う。だけど彼の演奏にコルトレーンの影響があるのは明らかだと思う。彼がトレーンに抱いている想いがこの作品というわけだ。

上京してまだ数年のころ、ブルーノートにシダー=ウォルトン(だったと思う)のグループを聴きにいき、その時のゲストがボビーだった。同じ会社にいた大学の後輩の女の子を誘って行ったと記憶しているが、僕の目当てはボビーの演奏を生で聴くことにあった。

「ボビー=ハッチャーソンっていう鉄琴を演奏する人がゲストで出るんだよ」と同行者に説明すると「てっ、テッキンって、あの鉄琴ですかあ?」と不思議そうな顔をした。それはそうだ。多くの人にとって鉄琴は学校の音楽室にある木琴の親戚程度の記憶でしかない。

予想通りというか興行主の思惑にハマったというべきか、シダーの渋い地味なピアノに対して、ボビーのマレットさばきは何とも華麗なものだった。これには彼女も本当に目を丸くしていた。

彼の音楽遍歴は、ブルーノートレコード4000番台の歴史といっても過言ではない。"Happenings"や"Components"などの代表作に加え、様々な作品にサイドマンとして参加している。1980年代にも先にご紹介したトニーの新生ブルーノート第1作"Foreign Intrigue"のなかの"Life of the Party"で目の覚める様なソロを聴かせてくれる。

あまり数は多くないが、僕が一番好きなヴァイブ奏者はボビーで、あとはウルトラテクニシャンのマイク=マイニエリがお気に入りというところだろうか。大御所ミルト=ジャクソンはMJQの演奏しか知らないのだが、クラシックの室内楽みたいなお上品さがどうもあまり印象に残らない。ゲイリー=バートンも上手いとは思うがそれ以上の何かを催すことがない。どうしてこうなったのかはわからないが、これが僕のヴァイブラフォン体験の現状だ。

今回の作品では、ボビーは特に気負うでもなくトレーンゆかりの作品を丁寧に演奏しているという印象だ。もう70歳に近いはずだが、こうして元気な演奏が聴けるのはうれしい限りだ。先に紹介したECMの"Mostly Coltrane"の様なモダンな解釈もなく、ひたすらボビーの色で描いてゆく。そこがとても気持ちいい。

結局、僕はいまだにトレーンが大好きなのだ。

どうやらまたまたコルトレーンの波がやってきそうな予感がする。ちょうど仕事も面白くないところなので、せめて音楽では自分の心底にあるものをしっかり楽しんでみたい。結構なことだ。

Bobby Hutcherson - Wise One Bobby Hutcherson - Wise One iTunes Storeでダウンロード

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