10/17/2010

ヘンリー=グリムズのソロ

ヘンリー=グリムスのソロアルバム"Henry Grimes Solo"を買った。これはベースとヴァイオリンによる彼の即興演奏を2枚のCDに収録したもので、2時間半におよぶ演奏は一切編集が施されていないという。

そんな奇特な作品があると知るやどうしても気になってしまい、半ば衝動的に買った。おまえは相変わらず物好きだねと思っていただければ幸いだ。そして買ったからにはとばかりに、僕はこれまでにこれを5回通して聴いた。

一聴して、特別に心に響く様なフレーズが奏でられるわけではないし、ハッとする様な技巧が出てくるわけでもない。しかし、聴いてぐっと引き込まれる何かを持った演奏である。このエネルギーというかインスピレーションは一体どこからくるのだろうか。

彼は1960年代を中心に活躍したベーシストで、たぶん一番有名なのはアルバート=アイラー等フリージャズのシーンで活動したことだろう。ESPやインパルスなどに残された多くの作品で、彼の演奏を聴くことができる。

最近になってディスクユニオンのブログなどで彼の新作が発表されたことを知った。それはラシッド=アリとのデュオアルバムだったのだが、それによりヘンリーがまだ音楽活動を続けていること、そして正直に言うとまだ存命であったことを知ったのは驚きだった。

そして、さらなる驚きはネットで調べてわかった彼の60年代以降の経歴だ。詳細は彼自身のウェブサイトなどにあるが、かいつまんで書くと、1960年代の終わりにアメリカ西海岸をツアー中だった彼は、愛用のベースを破損し、その修理代を支払うことができないままツアーメンバー達(その中にはギタリストのアル=ジャロウもいたらしい)と別れ、それっきり消息不明となってしまったのだ。

それから40年以上経過した2002年になって、ソーシャルワーカーでジャズファンだったある人物が、一般には死んだと思われていたグリムズに関心を持ち、彼の消息を調べた結果、奇跡的にロスアンゼルスでその生存が確認される。

彼は壊れた楽器を処分して音楽の世界から去り、その後はずっといろいろな仕事をしながら安いアパートを借りて食いつなぎ、詩を書いていたりして生活していたのだ。発見された当時、30年以上前にアイラーが死んだことさえ知らなかったという。彼はベースを所有していなかったが、演奏することを切に願った。

そして、彼の偉大な過去を知る人間たちーデヴィッド=マレイ、ウィリアム=パーカー、ハミッド=ドレイク等々ーの協力により、ヘンリーは見事に音楽シーンに復活したのである。

まったく信じられない様な話ではないか。そして僕にはどこか勇気づけられるような話だ。40年間のブランクの間も、彼は音楽のことを想い続け、そして音楽によって自分が表現したいもののことを考え続けたのだ。

その想いがこの長いソロパフォーマンスに凝縮されているのだと思うと、僕はますますこの作品に親しみと尊敬を抱くようになった。想いを捨てずに生きてこそ、そんなことをしっかりと教えてくれる作品だ。

0 件のコメント: