伊豆の温泉旅館の部屋やラウンジで過ごした心地よいひと時は、大切な人生の想い出になった。そのなかで新しく僕の心に刻みつけられることになったのが、マイケル=マントラーの音楽である。
マントラーの新作"Concertos"が発売されたのは昨年の11月だった。それが僕の手元に届いたのは今月の初めだったが、最初にさっと聴いてみたそのときからこれは素晴らしい音楽だと直感した。じっくりと聴いたのは温泉旅行に持参したiPodを通じて。往路で1回、入浴後夕食前に部屋で1回、翌昼に眺望のいいラウンジでまた1回、そして帰りの車中で1回と計4回これを聴いた。その後体調が回復してからも毎日これを聴いている。
収録されているのは、トランペット、ギター、サキソフォン、マリンバヴィブ、トロンボーン、ピアノ、パーカッションという楽器の名前が冠された7曲である。アルバムタイトルからお分かりのように、それぞれの楽器をメインにフィーチャーした小さな協奏曲集というスタイルになっているわけだが、それぞれの作品とその演奏の素晴らしさはもはやただものではない。
冒頭ではマントラー自身のトランペットが高らかに歌い上げたかと思えば、続くルーペのエレクトリックギターが奏でる旋律がまた何ともいえない美しい流れである。こういう調子で、ラストのニック=メイスン(ピンクフロイドの!)によるパーカッションまで、全く気が抜けることのない緻密な音楽協奏曲の時間が経過してゆく。
ちなみにマリンバとピアノ(演奏者はシュトックハウゼンの息子である)の2曲はソロパートまで完全に書き込まれた作品で、パーカッションのみがソロイストのパートが全面アドリブである。そして残る4曲は一部にアドリブパートが挿入されるスタイルになっている。詳細はマントラーのウェブサイトに全曲のスコアが掲載されているので、興味のある方は是非ともご覧いただきたい。
本作が発売された昨年は、マントラーを有名にした1968年の"The Jazz Composer's Orchestra"からちょうど40年目に当たるわけだが、今回の作品の方法論があの歴史的な名作の現代的再演を意識したものであることは、本人もライナーノートで認めている。前作でファラオ=サンダースをフィーチャーした衝撃的演奏"Preview"のモチーフは、今作のサキソフォンのなかでもはっきりと聴くことが出来る。
オーケストラパートはその規模はほぼ同じであっても、楽器の構成は管弦楽に代わり、奏でられるアンサンブルにも重ねた年月の熟成が繊細さのなかににじみ出ている。セレクトされたソロイスト達の顔ぶれにも、マントラーのその後の音楽活動の幅広さが現れている。
これを機にまた40年前の作品を繰り返し聴いてみたのはもちろんだが、あらためて作品としての完成度の高さに唸ってしまうばかりであった。コリエルをフィーチャーした"Communications #9"の緻密さを再発見し、"Preview"にはわかっていても何度でも打ちのめされる(マゾである)。そしてなんと言っても、2つの作品でソロ演奏を披露するラズウェル=ラッドの聴き比べはなんともエキサイティングだ。
いやもう、マントラーという芸術家に深くハマってしまいそうである、というか既にハマったのは間違いない。昨日には、メイスンをはじめジャック=ブルース(!)等を迎えたロックスタイルのユニットによる"Live"も取り寄せ、活動の幅広さにまたとてつもない位置に座標を拡げられてしまって、楽しく混乱している。
うーん、素晴らしい!これだから音楽はやめられん。わはははははっ!
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