自宅で愛用してきたiBookを不注意でテーブルの上に落としてしまい、電源の接触に問題が発生してしまった。結婚後しばらくして買ったものだからもう7年近く使い続けている、いわゆる貝型の初期iBookである。無理やり新しいOSを動かしているのでアプリケーションの動作は鈍いのだが、キーのタッチもやわらかく、ろぐを書いたりするのには気に入っていた。修理しようかどうしようかまた悩みが増えてしまった。
今回は会社から借りているWindowsマシンを使って書いている。出張なんかにはとても便利な道具なのだが、キーボードが狭く文章を書いたりするのにはなかなか慣れないものである。僕個人の考えとしては、情報の作業を行う画面と居住空間にはある一定の(といってもそんな大げさなものではない)広さや大きさが重要だ。日本人の得意な発想である何でも小さくコンパクトにしてしまうことにも、メリットとデメリットがある。見過ごされがちなことかもしれないが、これは文化や社会につながっていく大切な問題だと思う。
前回のろぐについて実のところを白状すると、ほとんど書き上げた段階で以前あの作品を取り上げていたことを思い出した。僕の中では取り上げたのはコルトレーンの「アセンション」の方で、あの作品は参考作品として扱ったつもりだったのだが、実際には逆だったのだ。まあ過去にも2回取り上げた作品もあるし、実際にその週に聴いて一番印象に残った作品なのだからよしとすることにした。今週も仕事帰りに一度聴いたが、聴きたいと求めて聴く作品は、大抵の場合見事に僕の心を癒してくれる。
今回は、前回少し触れたキースの作品を取り上げる。1994年に発売されたこの作品はECMのクラシック音楽作品のレーベルである"ECM NEW SERIES"からリリースされたものである。キースは同レーベルから数枚の作品を発表しており、その多くはバッハやモーツアルトなどを演奏した作品であるのだが、この作品はキースの作曲作品集になっている。その意味では、少し前にとりあげた"In the Light"に通ずる内容である。僕がこれを聴いてみようと思ったのも、あの作品との出会いがきっかけになった。
ここに収められた音楽の素晴らしさは、僕自身にとっては最近の大きな喜びのひとつと言っていい。奥が深く、優しく、そして重要なのは多くの人に開かれた音楽であるという点で、この作品は本当に素晴らしいものである。収録作品は4曲。ヴァイオリン、ヴィオラ、オーボエのそれぞれとオーケストラのための作品、そしてヴァイオリンとピアノのためのソナタがありこの作品ではキース自身がピアノを演奏している。
作品は彼がクラシック音楽にのめり込んだ1980年代半ばから1990年に書かれたもの。キースの音楽キャリアの中でも明確に一つの頂点といえる時期のものである。こうした彼の音楽的発展とその思想については、DVDのドキュメンタリー作品"The Art of Improvisations"(写真右)に詳しいので、興味のある方は一見されることをお勧めする。
日頃ほとんど音楽など聴かない人が、この作品を突然家に持ち帰って聴いたとしても、本人や一緒に暮らす人に大きな感銘を与えることだろう。逆に毎日いろいろな音楽に入り浸っている人にとっても、結果としては同じことになるのではないだろうか。
あくまでも僕個人の意見だが、この作品をして「馴染みにくい」はもちろんのこと、「単調だ」とか「面白みに欠ける」と評することもまたあり得ないことだろうと思う。まったくキースのことを知らない人にとって、この作品が彼への入り口になることがあったとしても、何ら驚くにはあたらないだろう。
僕自身にとっては、いろいろなまわり道をした結果たどり着いた大切な音楽作品であると思っている。たぶんこれからいろいろな機会にこの作品に耳を傾け続けることだろう。その度にここにある音楽は僕に音楽の喜びをもたらし、新しい側面を見せ続けてくることだろう。
案の定、現在は店頭で入手することはかなり困難なようだが、アマゾンなどの海外通販を通じればまだまだ容易に買うことができると思う。日頃音楽への接し方の如何を問わず、このろぐを読んでいただいているすべての方に、自信を持ってお勧めしたい音楽作品である。
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