2/12/2006

オリヴィエ=メシアン「オルガン作品集」

 一時の厳寒に比べれば、幾分はマシになったが、それでもまだまだ寒い毎日である。仕事のピークも超えて、家で酒を飲んで音楽を聴く余裕もできた。寒い部屋で落ちついて深深とした音楽を聴くのもよい。ということで、今回取り上げるのはオルガン音楽、いわゆるパイプオルガンである。

パイプオルガンのイメージを一言でとなれば、やはり「荘厳」とか「重厚」になるだろうか。もともと教会に設置されている楽器であるため、宗教的イメージが強い。当然、オルガン音楽の多くは宗教曲である。

一番有名なのは、やっぱりJ.S.バッハの諸作品、なかでも「トッカータとフーガニ短調」は誰でも一度ならずとも聴いたことがあるメロディだろう。タイトルを聴いて「?」という方も、死刑のメロディとか言われれば、「ああ、あれね」となるはず。なぜあの曲にそういうイメージがついているのか、僕にはわからない。たぶん、テレビ番組か何かでそういう使われ方をしたのが、定着してしまった悪い例なのだと思う。

オルガン音楽なんて重苦しくて家で聴く気にはならない、という人は多いと思う。僕自身はCDを数枚持っているけど、確かに真夏とか昼間に聴きたくなるものではない。大きな音で鳴らしても、なかなかいいように響くはずもなく、却ってうるさく聴こえてしまう。そして、部屋に宗教的な雰囲気が醸し出されることが、意外なほど嫌悪感を増大させるものだ。

フリージャズやへヴィーメタルなんかは、わからない人からすれば、単にうるさいとか騒々しいだけである。しかし、オルガン音楽は音楽的にはきれいな和声であっても、その独特のけたたましさがやはりうるさいと感じられてしまいがちである。加えて、日常生活の場である自宅の部屋に、教会的雰囲気がかくも不釣合いというか、居心地を悪くさせるものかと思い知らされる。

オリヴィエ=メシアンはフランスの作曲家。20世紀全般に活躍し、特にいわゆる現代音楽の時代を担った作曲家たちを育てた役割で知られている。作品数も多い。彼は、また教会のオルガン奏者でもあり、オルガンの構造にも精通していたため、非常に奥の深いオルガン作品を多く遺している。

今回の作品は、1956年に48才だったメシアンが、フランスの教会にあるパイプオルガンを使って、それまでの自身のオルガン作品を演奏したものを収録した自作自演集である。CD4枚に8つの作品が収められている。

はっきり言っておくが、この作品の素晴らしさは相当なものである。僕にとっては、たくさんあるコレクションのなかでも、かなり重要な音楽作品の一つである。内容は相当に聴き応えがあり、ある意味で重いものではあるが、先に書いたような典型的なオルガン音楽とは異なり、宗教性よりも豊かな音楽性に溢れた作品である。

僕がこの作品のことを知ったのは、ジャズを熱心に聴きまくっていた社会人になりたての頃だったと思う。ジャズ批評誌で「私の好きな1枚のジャズレコード」という特集があり、確か100人ほどのジャズ愛好家が、自身の想いを1枚の作品に込めて綴ったものが、1冊の本にまとめられているものがあった。これはなかなか面白い読み物だった。実のところ、このろぐをはじめるに際しても、その本の存在が大きなヒントになっているほどだ。

その中で、誰が書いていたのか思い出せないのだが、確かジャズミュージシャンの誰か(もしかしたら日野皓正氏か元彦氏だったか)が、なんとこの作品をあげていたのである。そもそもジャズレコードではないわけだが、僕はそういうのが結構好きである。その原稿内容を許した編集部も含め(単にダメだと言えなかっただけかもしれないが)、いかにもジャズらしいと思ったものだ。

それは、彼が当時ニューヨーク在住だったジャズピアニスト、菊地雅章氏のマンションを訪ねた際に、部屋になんとも言えないかっこいい音楽が流れていたという話であった。彼は、菊地氏にそれが何なのかを尋ねるのをためらい、菊地氏が席を外した際にこっそりオーディオセットのところまで行って盗み見したら、それがメシアンの自演オルガン作品集だったというわけである。

メシアンの名前はかろうじて聞いたことがある程度で、もちろんCDなど持っていなかった。しかしその文章で語られたこの作品に、僕は少なからず心を惹かれたのである。早速、慣れないクラシック売り場に赴き、すぐにこの作品を見つけた。4枚セットだということに多少驚いたものの、メシアンが自分のオルガン作品を自分で演奏したものというのは、これしかないわけだし、間違いはなかろうとためらわず購入したのを憶えている。

収録されている作品は、オルガンをかなり繊細に用いたものばかりで、ありがちな荘厳な響きが続く作品はあまりない。もちろん作品は全て宗教的テーマに基づいた内容なのだが、いずれもある意味非常に瞑想的な音楽であり、現代的な音遣いは本当に無駄がなく、聴くほどに深みがどんどん増すのである。

今回、久々にまとめてこれを何度か聴いてみたが、個人的にはいままで以上に味わいが深まったように感じている。やや録音が古くモノラルではあるが、音は決して悪いものではない。しかし、やっぱりこれらの作品をステレオで聴いてみたくなり、今回ついにたまりかねて、グラモフォンから発売されているメシアンのオルガン音楽全集(6枚組)に手を出してしまった。届くのが待ち遠しい。

もう一度書いておくが、このろぐで取り上げてきた作品のなかでも、今回の作品の音楽的素晴らしさは相当なものである。決して立派なオーディオセットは必要ではない。そうしたハンデをものともしない音楽的説得力に、ただただ圧倒されるばかりである。脱帽。

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